最前線報告サイボーグ技術が人類を変える


身体の一部を機械に置き換え、脳が機械と直接つながったシステム・サイボーグ。

SFの世界の話だと思われていたサイボーグが今、現実のものになろうとしている。
そして今、サイボーグを実現可能にする技術として最も注目を集めるのが、脳の惰報を利用する技術・神経工学だ。

NHKでは、脳研究を中心に科学の最前線を取材してきた、“知の巨人”立花隆さんとともに、この夏、サイボーグ技術の行方を見つめるため、世界各地での徹底取材を行った。

自ら進んでサイボーグ化をすすめた人々――アメリカ・テネシー州の男性は、感電事故で両腕を失った。今、考えただけで動く「人口の腕」を手に入れている。

完全に視力を失ったカナダの男性。ビデオカメラで撮った映像を直接脳に送りこみ、光を得ている。医療・福祉の分野でサイボーグ技術によって、人々は人生を取りし、今までの人類が体験したことのない新たな感覚を得ていることと立花さんは言う。

さらに、最先端の現場では、脳の機能の一部を機械に置き換えるサイボーグ技術も進んでいる。難病の治療に劇的な効果をもたらした。
しかし、この研究は、今、うつ病強迫神経症などにも応用され、人の心に関する部分の調整にまで踏み込もうとしている。

その急速な発展に注目し、巨額の資金を研究に投資じているのが、アメリカ国防総省である。手足の力を10倍にするパワースーツ。聴力・視覚を格段に向上させるなど、不死身のサイボーグ兵士を作る研究が進む。そして、ついに脳とコンピューターを直結し、考えただけで全ての機械、つまり兵器を動かす研究を実用化しようとしている。


サイボーグ技術。それは、人類に光をもたらす技術なのか、あるいは、許されざる人体改造なのかーー21世紀、私たちは、どのような世界を生きていくことになるのか。
世界の最先端の現場から、立花隆さんの思索とともにお伝えする番組である。

脳とマシーンの融合

今、神経と機械装置の間で電気信号をやりとりする技術・“神経インターフェース”が現実のものとなり始めている。
その技術は、長年SFで語られた「サイボーグ」をある意味で現実のものとする技術でもある。


脳がコンピュータを動かし、道具を使う

現代社会では、世界中ありとあらゆるものがコンピュータによって制御されています。これは、脳とコンピュータを直結させることが出来れば、世界中ありとあらゆるものを考えただけでコントロールできるということに他なりません。今、それが夢ではなくなろうとしています。

ジョン・シェーピン教授は、今までの「脳が筋肉を動かし道具を使う」という信号の流れを根本から覆す、「脳がコンピュータを動かし道具を使う」という回路を作り出すことに成功しました。

バーガー教授は記憶力をつかさどる海馬をコンピュータチップで置き換える研究を進めています。さらに、生きているマウスの動きを人間がコンピュータで操れる「ロボラット」の技術も現実のものとなりました。
アメリカの軍事機関DARPAはそのサイボーグ技術を使って、考えるだけで動く兵器や、より優秀な兵士を生み出そうとしています。そのために、アメリカ国防総省はサイボーグ技術の研究に多額の資金を与え、支援しています。グリーリー教授は言います。「この技術をどう利用するのか、話し合える時間はあと数年しかない」と…


人間が脳を乗っ取る「ロボ・ラット」の衝撃

研究者が頭部にのせたカメラからのビデオ映像を見ながら、小さなラップトップコンピュータでシグナルを送ると、ラットの動きを自由自在に操ぐることができる。

遠くに行かせて、戻ってこさせることもできれば、迷路のような道に入りこませ、ジグザグに走って迷路を抜けさせることもできる。

ハシゴを登らせて、普通なら登るはずもない高い所に行かせ、高所の細い通路を伝って、またハシゴで降りてこさせるなど、なるほど自由自在だ。
電極は脳の運動野と体性感覚野に埋め込まれている。普通のネズミは、ヒゲで周辺環境を察知して、右すべきか左すべきかを判断し、その判断結果を運動野に送る。

ラップトップからの信号は、その神経連絡路に入るから、ネズミは、自分の脳がそういう判断を下したと考えて(実際には考えもしないで、反射的に)、その指示通りに行動する。

要するに、ロボ・ラットは、脳を人間に乗っとられ、人間の指示通りに動くようにされてしまったラットなのだ。

電極はもうひとつ入っていて、それは脳の快楽中枢にうめこまれている。
ラットが指示通りに動くと、研究者は快楽中枢を刺激する信号を送る。ごほうびなのだ。 立花氏参


サイボーグ技術を時空研的に応用すると面白そう。