迷いを斬り、悟りを斬る名刀とは

 吹毛の剣とは、山田無文老師の解説によると「剣の切っ先に髪の毛をふっと吹きかけると、毛が二つに切れてしまう」ほど抜群の切れ味をもち、「仏に逢うては仏を殺し、生死岸頭に於いて大自在を得る。迷いを斬り、悟りを斬る」という名刀である。

 その名刀をさして、ある僧が巴陵和尚に尋ねた。
「そのような刀はいかがですか」と。
「仏を殺し」などというのは物騒な話だが、この考案は、「般若心経」にある絶対空、絶対無の意味がわかっていれば、すぐに理解できるはずだ。

 「空」の心は、目前の空気のようだといった。
目前の空気には生じるものも、減するものもない。
垢つくものも、浄らかなものもない。増すことも、減ることもない。そして眼もない、耳もない、鼻もない、身もない、心もない、鬚もない、眼鏡もない。
とすれば、仏もないではないか。

仏が生じた無生心ではない。空無とは、本来一物もない状態をさしているのである。

 僧の質問は、そのような純粋無垢の世界はどういうところか」という意味だ。

 これに対して巴陵和尚は、「珊瑚の枝々が月を支えている」と答えた。

珊瑚の枝々の水滴に、一つ一つ月が宿っている。原始初代からつづく自然の姿といえるであろう。