カタチ

 その何かがあるカタチの本質的なことを、いままである知識を出発点としながらも、決して、それらの通説などにとらわれない発想法でアプローチしてみた。       高橋励氏
 その結果浮かび上がってきたのは、……それらの聖なるカタチの背後には一定の法則性があり、宇宙の森羅万象を包含した“究極のカタチ”の存在であった。そして、聖なるカタチは、その究極のカタチの1断面であったり、一部分であることも見えてくる。

 さらに、この究極のカタチが、この世界で目に見え、手で触れられるカタチとして現れ出てくるとき―、
 
その巨石文明、ピラミッド、マンダラなどの秘密を一つ一つ探り出すことで、長い間地下に隠されていたその原理を白日のもとにさらしていく。
 
その結果、六芒星原理と五芒星原理をバランスよく組み合わせることが、物質的にも、精神的にも、ある種のパワーを生み出す根本であることが、ますます明確になった。

「パワーのある形」とは、空間にあるパワー(厳密にはエネルギー)を引き出す機能のある形や、人がパワーを取り入れるのを助ける酵素や触媒のような機能を持つ形を指している。

生物の固体が細胞分裂して成長する際に、その細胞の増加率をきちっと示す神秘的な数がある。その数が黄金率である(神聖分割比、または黄金比ともいう)。

ある心理学者が統計を取ったそうであるが、いくつかのプロポーションを持つ形の中で、最も多くの人が美しいと感じる形は黄金率によるものであるという。
また自然界でも台風の渦巻や動植物などの成長する形態には必ずといってよいほど、この黄金率が現れている。まさに神の秘数なのである。

―正八面体をした小さな磁鉄鉱の磁結晶が、人の脳内にたくさんあることが発見された。
磁力を帯びた、この小さなタブル・ピラミッドのイメージは、脳内最奥の視床下部で石灰質に囲まれてリズムを刻んでいる石英結晶の螺旋状エネルギーの存在とともに、エジプトの大ピラミッドとの関連を暗示させて興味深い。

三次元空間の最密充填立体は、この正八面体の六つの頂点をすべてカットしたもので、正六角形の面が8枚、正方形の面が6枚、計14枚の面で構成されていて、ケルビン14面体とよばれている。

●次元間エネルギー交換 

これは、三次元空間の六芒星原理を土台に昇華してきた、より高次元を目ざすエネルギーが、五芒星原理である右ねじ巻きの螺旋状に上昇するのと対発生的に、四次元空間からのエネルギーが、やはり螺旋を描きながら、三次元空間に降下してくる状態をいう。実はその様子を古代からシンボリックに伝えているのが、杖、剣、石柱などに巻きつく2匹の蛇や龍の形象で、その断面を表したのが太極図である。
ちなみに日本語の右(みぎ)と左(ひだり)は、身着る(みぎる)と、霊足る(ひだる)という古代ヤマト言葉の動詞が、名詞化したものである。
これは、右回りの下降螺旋が次元降下して、物質化した身体を顕わして、また霊が左回りの上昇螺旋で高次元と交流することを意味している。
言霊学によれば、さらに右は水気、左は火足と読める。後者は霊垂るとも書けることから、古代日本においては、この双方向のエネルギー交流がはっきりと認識されていたことを物語っている。

●四次元エネルギーを利用するシステム
(一般には、フリーエネルギーマシンという名称が使われていることが多い)
 このシステムのメカニズムについて、カタチのパワーの立場からの重要な提言は、次のとおりである(図60)。

A.四次元エネルギーを連続的に三次元空間に次元変換させる構造には、五芒星原理の対数螺旋の形状を生み出す要素が理想的である。

B.四次元エネルギーを三次元空間に引き込むには、呼び水になるエネルギーが必要である。
このエネルギーは六芒星原理によって入力され、五芒星原理が四次元空間との境界であるトーラス状螺旋場に向かうように変換するものである。

四次元エネルギーは、この三次元空間から四次元空間へ向かうエネルギーと引き換え(双対的)に降下し始める。

「すべては一つ」であるマンダラ構造

 西洋の宗教では、人や動物や来や石は、神という創造主がつくったとする。つまり、万物と創造主の間には絶対的な距離があり続ける。

 これに対して、密教では万物は大日如来の現れであり、すべては背後で一つにつながっている、と説く。「万物を構成している地、水、火、風、空、識の六大原理の根源はすべて大日如来にあり、私たちは大日如来によって創造されたのではなく、1人1人が大日如来一尊の化身としてこの世に在る」という。

 これは、ニューサイエンスの旗手の1人と目される物理学者のデビット・ボームのいう、私が日常で目や耳にしている明在系の背後には、暗在系の世界という、一つにつながった関係性の世界があって、意識も物質もそこから展開してくる、といった立場に非常に似ている。

 この「すべてのものは一つにつながっている」というホリスティックな宇宙観を華厳宗の三祖法蔵が、みごとな比喩で言い表しているのでご紹介しよう。

 それは「インドラの網」という極めて美しいイメージであり、後に空海も「即身成仏義」の中でこれを引用している。

 選び抜かれた真言マントラ)による音のカタチ、印契による身体感覚のカタチ、意識によるイメージ化されたカタチを同時に反応させることによって(三密加持)、それぞれのカタチの成分がシナジー効果をおこし、目に見えぬ黄金率の渦が生まれ、速疾に究極のカタチが心の深奥で結晶化する。
 究極のカタチを体現した修法者は、三次元空間にいながらにして、四次元空間のエネルギーを受けることができる(即身成仏)のである。
 この三次元空間にいながら、というのが大切なポイントで、実は三次元空間を離れて、四次元空間に入る方法もあるのである。しかし、その方法では決してパワーを受けることができない。

 このようにマンダラには、究極のカタチ、すなわち、カタチのパワーを得るためのノウハウが組み込まれている。そして、その真髄は「私たちが普段身をおいているこの世界にきちっと着地しながら、高次元のパワーをめざすのが大切で、また、そうしないとパワーが得られない構造になっている」ということである。

カタチのパワー原理は、新たな価値創造と調和のための営みである
 究極の宇宙は全であり一である。始まりもなければ、終りもない。その姿は自己完結している。しかし、その多岐にわたる部分構造では、多様な展開が常に繰り広げられている。
 いにしえの神秘主義者たちは、究極の宇宙を1本の大木にたとえた。太い幹から枝がでて、その枝からさまざまに小枝が分岐していく。大きく曲がったり、葉をつけたり、多彩な変化を見せる。しかし、その分岐の先を目で追っていき、さまざまな変容を見いだそうとも、その大木は元の1本の大木のままであり、存在そのものは不変である。
 だが、1本の大木に特徴があるように、究極の宇宙にもアイデンテティのようなものがあり、それがすべての階層の部分構造に行き渡っているといった相以則がある。
 たとえ、その相が異なって見えようとも、各階層それぞれの六芒星原理に五芒星原理を組み合わせて、究極の宇宙の姿を再現しようと推し進める意志がある。各部分構造にとって外因的にとらえた、それを“宇宙の意志”と呼んだ。
 彗星がチベットに衝突したこと、古代人が巨石柱を立てたこと、聖者が出現したことといった“聖なるものへの希求”を、すべて共通の原理で読み解いてきた。

賢治が  心象スケッチ

わたしといふ現象は

假定された有機交流電燈の

ひとつの青い照明です

(あらゆる透明幽霊の複合体)

風景やみんなといっしょにせはし

く明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける

因果交流電燈のひとつの青い照明です

(ひかりはたもち、その電燈は失はれ)

 もっとも、バッキーボールの方は、オングストローム単位のサイズで、電子顕微鏡でやっと確認できる位の小粒だが、「サンショは小粒でもピリッと辛い」のことわざどおり、この超ミニサイズのサッカーボール、どうして、どうして、21世紀の世界を担うようなパワーを隠し持っているような気配なのである

 そして何よりも興味深いことは、バッキーボールが「六芒星原理と五芒星原理の組合せにカタチのパワーがある」という、この連載のメインテーマである“カタチのパワー原理”をそのまま見本化したような優等生の顔をのぞかせていることである。

 さて、バッキーボールのカタチを一言で述べると、20枚の正六角形と12枚の正五角形(サッカーボールの黒いところ)でつくられた多面体ということになる。

その頂点は各正五角形の頂点でもあるから、全部で12×5=60個ある。つまり、C60ではその各頂点が炭素の原子が配列されているわけである。

 プラトンは正四面体、立方体、正八面体、正12面体、正20面体という五つの正多面体を研究していたが、バッキーボールはこの内の正12面体と正20面体をちょうど混血した多面体といえるので、全部で12+20=32の面を持つわけである。

 この立体は分子構造としては、三次元空間でもっとも対称性が高く、そのため形が球に近いものであり、球形度を示す値は、純球を1とすると1.0345になっている。
 そのためC60は電気的な片寄りが少なく、なんと1秒間に1億回転!の高速スピンをしている。

 現在これらの研究用のC60は、人工的に合成されているが、星間物質としてや、その他の自然界にもたくさんあることがわかり、またロシア産のシュンジャイトという岩石の中からも発見されている。

バッキーボールのスーパーパワー

 では、バッキーボールにはどんなパワーが秘められているのだろうか。
 第一にそのカタチから驚異的な耐衝撃性を発揮する。

 ジオデシックドームのように、歪みが構造全体に均等に分散されることから、このことは予測されていたが、C60のボールは、時速27000キロメートルで鋼板のゴールめがけてシュートされても、ビクともしなかったといわれる。

 この耐衝撃性は、ダイアモンドのそれをはるかに凌駕するものである。

 通常は鉛筆の芯と同じ位に柔らかいのが、圧縮を受けるとダイアモンドより硬くなり、それを解除されると元にもどるというから、まったく不思議なヤツである。

 またC60は超伝導材として期待されている。

 超伝導とは低温で電気抵抗がゼロになる性質で、その研究のポイントは、いかに常温に近い温度でそれが得られるかである。

 カリウムなどのアルカリ金属を付加した(ドーピング)結晶を低温にして、超伝導の性質を得るのだが、現在私の手元にある資料では、タリウムルビジウムを付加したものでは、絶対温度43近くに達するという。

 そして、これからもこの超電導オリンピックの記録は、どんどん塗り替えられていくだろうと思われる。

 さらに、C60は他の分子より電子を受け取りやすい性質や、光活性の性質があり、医学面でもパワーを発揮しそうだ。

 カリフォルニア大学のケニヨンらの研究では、C60にエイズウィルスを殺す能力があることがわかり、また東工大の中村栄一教授のグループによって、C60に炭素とコハク酸を化合したものに、ガン細胞の増殖抑制の効果が認められている。

 宇宙開発の分野でも一早く注目しだされている。

 Ν60という窒素のバッキーボールは、ロケットの高性能燃料用として研究されている。
これが実用化されれば、燃料の性能をあらわす比推力を15秒も向上することが期待される。同じ窒素を使った爆薬であるTNTの2〜3倍もパワーアップするだろうといわれている。

 ―おどろいたことに、これらの例はバッキーボールが研究室に入るようになってから、わずか3〜4年の成果である。きっと今も世界のどこかで、またバッキーボールの新たなスーパーパワーが発見されているかもしれない。

新説!人体の神秘力はバッキーボール・モデルで説明できるかもしれない

 バッキーボールに人の身体との関係があるとは、ちょっと想像がつかないであろう。
 しかし、実はこのことにも深く関っているのである。

 ヨガのクンダリーニという背骨を螺旋状に上がるエネルギーや、針灸の経絡、深層心理に現れてくるくるカタチなどは、現代科学とは接点を持ちにくい神秘的な知としてあつかわれてきた。だが、もし人体をバッキーボールというモデルに置き換えてみると、これらの神秘的なものが科学的に読み解くことができそうだ。
 このモデルは、人の受精卵が1、2、4、8、16と倍々に卵割していくプロセスで32面のバッキーボール状になり、それが成体になってからも影響を残すという仮説を基本にしている。(図100、101)

 中国医学の経絡もバッキーボール状の32卵割胚との間に深い関係がありそうである。
 経絡の中で、もっとも重要なのは、12正経と身体表面の真ん中を走る任脈、督脈であるといわれているが、その内、12正経は五臓六腑を通って身体にめぐらされたネットワークで、まだ解剖学的には解明されていないが、針灸では二千年にわたって治療に利用されてきた。

 植物が光合成できるのは、葉緑素クロロフィル)が太陽光のエネルギーをとらえることができるからである。

これは太陽光のスペクトルの内、両端の光を選択吸収し、中程の緑色光は外にはじき出してしまう。草木の葉が緑なのはこの理由からである。

 さて、とらえた太陽光のエネルギーを化学エネルギーに変えるには、さらに複雑なプロセスが必要で、それを加工工場のような葉緑体が引き受けているのだが、その基本的な流れは電子の伝達である。これは吸収した光をATР(アデノシン三リン酸)に合成するプロセスと、ATPのエネルギーを使って糖やデンプンなどの炭水化物を合成するプロセスに分けることができる。

 さて我らがホープ、バッキーボールC60に、それらの光合成プロセスの微妙な電子のやり取りの肩代わりができそうであることが、阪大の坂田教授によって発表された。
 今のところC60の製造には莫大な電力を消費し、エネルギー収支が合わないことをはじめ、その他にも解決しなくてはいけない多くの問題が残されているとのことだが、バッキーボールを使ったクリーンな人工光合成が実現すれば、地球にエネルギー革命が起こることはまちがいないと思われる。

 錬金術の思想は、およそ次のようなものであった。

 神が最初に世界をつくったとき、ただ混沌…カオスだけがあったが、これは第一物質プリママテリアで構成されていた。

第一物質はすべての物質の基になる、いわば粘土のような材料(質料=ヒュレー)である。すべては、これに形相を組み合わせてできたものである。

 ならば、物質中にある形相をいったん取り除いてカオスに戻し、新しい形相を付け加えてやれば、例えば、鉛を金にすることさえ可能である。

 美しく、腐食することのない金は、この世でもっとも完全な物質である。鉛のような不完全な物質を完全な物質に錬成することこそ、神に近づく偉大な行為である。
 不完全なものの完全化は、金属だけでなく、精神、あるいは図形においても重要視されたのが、錬心術と錬円術の考え方である。

 錬金術のプロセスでもっとも重要な要素は、“賢者の石”という一種の触媒であった。
 賢者の石は、鉛を金に変える触媒であり、また神秘的な知識であり、コンパスと定規による作図法であり、さらに不完全な人体に永遠の命を与える霊薬でもある、ということになる。
 つまり錬金術は、この賢者の石を得ることに集約されるわけである。
 これを読まれて、すでにお気づきのことと思う。
 バッキーボールの登場した背景が、不思議とこの錬金術と符号しているのである。
 C60は炭素をプラズマガス状のカオスにもどしたところから、自発的に秩序が形成されて出現したのである。

 実際的な意味での触媒材料や霊薬としての可能性もそうだが、もっと広い意味での賢者の石になりそうである。

 これは科学思想がバラバラに切り離してしまった一であり、全の世界構造……、多義的、有機的、全体的な宇宙観を再び錬成する大役を担うことである。

 この21世紀の賢者の石―バッキーボール―のカタチを通じて、エネルギー問題から人体の神秘力、ウィルスやガンに対する霊薬、宇宙開発、天文学などまでが一つにつながり、それらの背後にある共通の真理に近づく方向に、人類が再び歩み始めたのではないか、ということである。

 この大きなゴールをめざすサッカーボールに、世界中の目がますます集まってくることであろう。