貧困は平和への脅威

 私たちにこの賞をくださることで、ノルウェーのノーベル委員会は、平和と貧困とは密接なつながりがあるという説に対する大きな支持を与えてくれました。貧困は平和への脅威です。

 世界の所得配分は、まさに印象的な話です。九四パーセントの平和の所得は世界の四〇パーセントの人々のところに集まっています。
一方では残りの六〇パーセントの人々がわずか世界所得の六パーセントで暮らしているというのにです。世界人口の半分にあたる人々は一日二ドルで暮らしています。一億人を超す人々がわずか一日一ドル未満で暮らしているのです。これでは平和はもたらされません。

 二一生気は素晴らしくグローバルな夢とともに始まりました。世界の指導者たちが二〇〇〇年に国連に集まり、二〇一五年までに貧困を半分にするという歴史的な目標を採択したのです。

それまで、人類の歴史において、全世界で声を一つにして、そのような、規模や時間を具体的に挙げた大胆な目標が採択されたことはありませんでした。しかし、その後「九・一一」が起きてイラク戦争が始まり、突然、世界は夢の追求が脱線してしまいました。

世界の指導者たちの注意は、貧困との戦いからテロとの戦いへと移ってしまったのです。以来、合衆国だけでも五三〇〇億ドルものお金がイラクとの戦いに費やされております。

貧困とはまさに、あらゆる人権の不在なのです。惨めな貧困によって引き起こされたフラストレーション、敵意、そして怒りがあると、どのような社会においても平和を維持することができません。

安定的な平和を構築するためには、あらゆる人々に世間並みの生活をする機会を提供する方法を見つけなければならないのです。

物乞いの人々にビジネスを

 バングラデシュではすでに八〇パーセントの貧しい人々にマイクロクレジットが行き届いています。二〇一〇年までに、一〇〇パーセントの貧しい家族に行き届くことを私たちは望んでいまつす。

 三年前、私たちは物乞いの人々に焦点を合わせた唯一のプログラムを始めました。彼ちにはグラミン銀行のルールはまったく適用されません。
ローンは無利子で、彼らは思い立ったときに、いつでも、いくらでも、返済することができます。彼らが物乞いのために家から家を渡り歩くとき、軽食やおもちゃ、あるいはありふれた家庭用品などの小さな商品を持って行ってみてはどうかというアイデアを彼らに与えるのです。

これはうまくいきました。このプログラムには、現在、八万五〇〇〇人の物乞いの人々がいます。彼らのうち五〇〇〇人は、すでに完全に物乞いをすることがなくなりました。一人の物乞いの人へのローンの基準額は一二ドルです。

グラミン銀行は営利を目的としないソーシャル・ビジネスの会社。でもCSRはあくまでも企業が利益を上げるために行われているもので、ソーシャル・ビジネスとはまったく違う。私はCSRの“責任”という言葉が誤って使われている気さえするんだよ」

「世界から貧しさをなくす」という彼の究極の目的を達成するために必要だったのがソーシャル・ビジネスであったのだ。

「男性も女性も、西欧人も東洋人も、豊かな人も貧しい人も、人間は誰でも巨大な創造力を内に秘めています。その力で国を発展させたり、環境をよくしたりすることもできる。人間はその素晴らしい贈り物のふたをすぐに開けて、より多くの力を世界中で爆発させるべきです」と、

彼は、私の目を見据えてこう語った。
「人間は、お金を稼ぐためだけに存在しているわけじゃない。何か人のため、社会のために働くことも大切だよ」。