日本は世界五位の農業大国

 実際、日本の農業生産額は世界五位、先進国中では米国に次ぐ農業大国である。

フランス(六位)、ドイツ(十三位)より多く、農業大国と呼ばれるオーストラリア(十七位)の三倍超ある。日本最大の農業県、北海道だけを抽出してみても、TPPの加盟国ニュージーランド(三十一位)と同等で、農業が盛んなアルゼンチン(三十六位)より大きい。

二位、三位の茨城県、千葉県の両県を足した生産額はデンマーク(三十七位)、スイス(四十三位)より大きい農業経済の規模を誇る。

農業GDP比率を先進国五カ国で比較すると、英国、米国はともに○・九%、ドイツが一%で日本より低い。日本はフランスの二%より若干少ないにすぎない。農業国と思われている豪州でさえ、三・一%である。OECD諸国は一様に一%弱〜数%の範囲である。

日本では現在、世界五位、先進国二位の規模の農業をわずか四十万戸の主農業家(農業所得が所得の五○%以上)が担っている。

彼らが我々の食する国産の大半を出荷している。列挙すれば、酪農の九五%、養豚の九二%、養牛の九二%、花卉の八七%、工芸作物の八五%、イモ類の八三%、野菜の八二%、麦の七六%、豆の七六%である。出荷類で換算すれば、売上一千万円を超える十四万軒の農家が日本の生産額の六割を稼ぎ出す。

最新の農業サンセスでは、売上一億円を超える農場が過去五年で一千件も急増している。

 こうした発展途上国型の農業問題というのは、日本ではすでに存在しない。産業構造の転換を終え、農家所得は国民平均所得を超えている(平均世帯の所得を百とすれば、日本の農家所得は百二十で米国百十より多い、OECD統計)。

存在しない問題をあたかも存在するとの協同幻想によって長年、日本では農家が永遠に未解決の問題と取り扱われてしまっている。

「農業は補助金と高関税で保護されており、自由化すれば大量の中国野菜が日本になだれ込んでくる」といったイメージが先行している。

 しかし、現実は、野菜の関税はわずか三%しかなく、すでにFTAを結んでいる九二とはほとんど無税である。補助金もない。にもかかわらず、国産のマーケットシェアは八一%もある。過去三年だけで、国内野菜マーケットは七百億円も伸びている。近接する中国からの輸入野菜の比率は国産の一○%未満だ。

 守るどころか、今では香港やシンガポール市場で一部、中国産、オーストラリア産と肩を並べ、三つ巴の戦いに参入している。日本の三倍も課される中国の野菜関税が下がれば、対中輸出増も視野に入る。
それを待ち切れず、果敢に中国本土に上陸し、現地生産を開始する農業経営者も現れ始めている。

 対する世界の農産物貿易額は、毎年十兆円規模で増えている。新興国での農産物の需要増大はとどまるころを知らない。その総額は日本の農業生産額八兆円の十二倍の百六兆円に及ぶ。しかし、日本の世界輸出シェアはわずか○・二%にすぎない。

 そして日本農業は今後、こうした市場をとりにいく絶好の機会にある。農産物輸出国は何十年もかけて輸出先を開拓し、今の農業生産の規模をなんとかキープしている。いわゆる輸出依存である。
 対する日本農業は内需の伸びに応じた成長で、世界五位の農業大国になった。これから満を持して経済発展する外需を取り込み、プラス成長できる恵まれたポジションにある。

 日本農業の脅威として取り上げられる中国の農産物の輸入伸び率は五一七%で世界五位。その額は六兆円に迫り、すでに日本の農産物輸入額を超える規模となっている。
 ただ、TPP、FTAといった自由化論に対して、未知数の輸出攻勢より、輸出急増で日本農業が完敗するイメージのほうに世論が流れやすい。

 そこで、八○年代の「牛肉・オレンジ交渉」で自由化された日本の果物と肉類はどうなったのか、振り返っておこう。

 そうはいっても、TPP断固反対派の「農業壊滅論」には公的な“根拠”がある。農水省の衝撃的な試算だ。

「農産物の生産額が四・一兆円減少、食料自給率が一四%に低下し、雇用が三百四十万人減少する。関連産業への影響も含めてGDPが約七兆九千億円減少、実質GDPを一・六%押し下げる」