鈴木敏文の統計心理学

 世の中には、われわれが「本当」のように思っていても、実は「ウソ」が含まれていることが数多くある。鈴木氏は世の中に蔓延する「本当のようなウソ」を素早く見抜き、「本当の本当」を突きつめ、「顧客の真実」を追究していく。

 鈴木氏の経営学の大きな特徴は、さまざまなデータの「本当のようなウソ」を見抜く独自の「統計学」にある。そして、企業経営を「経済学」ではなく、「心理学」で捉えるところにある。本人も「自分の原点は統計学と心理学にある」と話す。現代のビジネスマンが最も弱い部分でもある。

他店見学をしてはいけない、だが世間一般的には他店見学は常識
 なぜかといえば、今や、もの真似の時代ではないからです。モノ不足の時代だったら、柳の下のドジョウが二匹も三匹もいたから、あの人があそこでドジョウを取ったら自分もそこで取ってみようということがありえました。実際、二番手商法で儲かってきた有名企業もあります。

 しかし、今は柳の下にドジョウが一匹いるかどうかの時代で、もちろん、他店を見るのは絶対いけないと言っているわけではありません。ただ、人間はたいてい、よそを見るとそのよさを取り入れようという心理がどうしても働いてしまう。それでは何の進歩もない。

競争とは自己差別化です。社会が豊かになればなるほど、自己差別化が求められます。単にもの真似をするなと言っても、社員にはなかなか具体的な実感として伝わらない。そこで、他店を見てはならないという厳しい言い方をしているわけです。

 時間軸を“輪切り”にすると“本当のようなウソ”が見えてくる。今は「多様化の時代」ではなく「画一化の時代」である。机上の経済学より皮膚感覚で捉える顧客心理。脱経験的思考。

過去の「常識」は今の「非常識」。

 人間は苦しくなればなるほど、過去の成功体験にすがろうとする。新しく伸びている会社は、過去の経験のないところで仕事をしている。データを記録として見るのとマーケティングに使うのでは読み方が違う。