奇跡の脳

                      ジル・ボルト・テイラー氏
 脳科学者の脳が壊れたとき。脳卒中を体験する前のわたしは、左脳の細胞が右脳の細胞を支配していました。左脳が司る判断や分析といった特性が、わたしの人格を左右していたのです。脳内出血によって、自己を決めていた左脳の言語中枢の細胞が失われたとき、左脳は右脳の細胞を抑制できなくなりました。

 その結果、頭蓋の中に共存している二つの半球の独特な「キャラクター」のあいだに、はっきり線引きできるようになったのです。

神経学的な面においては、二つの脳は全然違う方法で認知したり、考えたりすることはありません。しかしこの二つは、認知する情報の種類にもとづいて、非常に異なる価値判断を示し、その結果、かなり異なる人格を示すことになります。

  脳卒中によってひらめいたこと。それは、右脳の意識の中核には、心の奥深くにある、静かで豊かな感覚と直接結び付く性質が存在しているんだ、という思い。右脳は世界に対して、平和、愛、歓び、そして同情をけなげに表現し続けているのです。

  右脳マインドは、生きとし生けるものがひとつに調和することを思い描きます。そして、自分自身の中のこうした性格を、あなたにももっと知ってほしいと願っているのです。

  わたしはたしかに、右脳マインドが生命を包みこむ際の態度、柔軟さ、熱意が大好きですが、左脳マインドも実は驚きに満ちていることを知っています。なにしろわたしは、一〇年に近い歳月をかけて、左脳の性格を回復させようと努力したのですから。

左脳の仕事は、右脳がもっている全エネルギーを受け取り、右脳がもっている現在の全情報を受け取り、右脳が感じているすばらしい可能性のすべてを受け取る責任を担い、それを実行可能な形にすること。左脳マインドは、外の世界と意思を通じ合うための道具。

ちょうど右脳マインドがイメージのコラージュ(さまざまな断片の集まり)で考えるように、左脳マインドは言語で考えてわたしに話しかけます。

脳のおしゃべりを利用することにより、人生の荒波を乗り越えることができるし、わたしのアイデンティティーも顕してくれるのです。
左脳の言語中枢の、「わたしである」ことを示す能力によって、わたしたちは永遠の流れから切り離された、ひとつの独立した存在になります。

全体から分離したひとつの固体になるわけです。