人と人の共感路?

エミール師へ

茂木 健一郎氏

脳波エミール師並での行動。人間は生まれつき優しさを持っている。人の気持ちが分かるとは?人間関係の中で感動を味わうということ。他者の心を理解する脳のメカニズム。

私達脳科学者が考え得るのは、どうすれば優しさの回路を活性化することが出来るかということです。勿論脳に関連する働きについて考えることも重要ですが、最も大切なことは、“他人の気持ちが分かる”というメカニズムを解き明かすことです。私は、そう考えています。

ミラーニューロンとは

霊長類などの高等動物の脳内で、自ら行動するときと、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞である。

30年ほど前から、マウスや鳥、犬など、多くの動物に神経発生(ニューロジェネシス)とよばれる新たなニューロン形成のプロセスがみられることがわかってきた。98年3月には、成長したサルの海馬(かいば:記憶の形成をになう脳の一部分)で新たな脳細胞がつくられることが明らかになり、同年11月にはヒトの脳細胞でも同じことが観察された。

脳の中心に近い脳室で、たえず新しいニューロンが生産されていることがわかった。新しい細胞は数日をかけて大脳皮質に移動し、それぞれ記憶、意志決定、視覚に関連する前頭葉頭頂葉、側頭葉にあらわれた。ひきつづき観察をつづけたところ、ニューロンが成熟した細胞になっていることや、軸索(電気信号によって別のニューロンに情報を伝達する際につかわれる細い枝状の突起)を形成していることも判明した。

ヒトとサルの大脳区分

ヒトやサルなどの霊長類では、大脳新皮質がよく発達しており、大脳のほとんどを占めている。大脳は大まかに前頭葉、側頭葉、頭頂葉後頭葉にわけられ、それぞれに連合野という高度な働きをする領域がある。もっとも高度な働きをするのが、前頭連合野で、他の連合野からの情報をくみあわせ、行動をきめる。ヒトでは大脳皮質の30%近くを占める。

人間が他人のことをどう理解するか。ミラー・ニューロンの存在が明らかになったことで、その謎に一歩近づいたわけです。
つまり人の脳の中に鏡を持ち、そこに他人の表情やしぐさを写しだす。そしてそこに写し出されたものと、自分の体験を照らしあわすという作業をする。
もう少し、分かりやすく言うと、例えば相手の悲しそうな顔をする。それを見て考える。自分がそのような顔をするときは、どのように感じている時なのか。そうだ、自分は悲しいと感じたときに同じような顔をする。自分が悲しい時の表情と同じ表情をしているのだから、きっと相手も悲しいという感情を抱いているに違いない。