世界一すごい日本農業の底力

中島 孝志氏 
フーチ 90%
 情報を収集し、十分に備え、その時を待つ。もしかすると、日本の農業がひと皮むけ、世界に飛躍するチャンスになるかもしれません。日本はこれまで、安くて性能のいい自動車、バイク、家電製品を世界に提供してきました。私は日本の農業もそういう役割を果たせると考えています。

九州ほどの国土の大きさのオランダが、世界で第三位の農産物輸出量なのです。なぜ日本が世界五三位に甘んじているのでしょうか?そこには、目に見えないさまざまな壁があるように思えてならないのです。

     TPPをチャンスに変えるために

 TPPはもともと自由貿易協定の一種です。参加国は自国の関税などの輸入障壁を撤廃し、加盟国どうしの貿易を推進するものです。日本のマーケットが加盟国に開かれるとともに、加盟国の市場も日本に開かれます。逆にいえば、一概に日本の農業が不利というわけではありません。アメリカでは相変わらず日本食がブームです。日本食にはお米や野菜等の食材が欠かせません。

 一方で、日本国内における年間の食品廃棄量は、食料消費全体の二割にあたる約一八○○万トンです。日本のコメの年間収穫量(平成二四年で約八五○万トン)をはるかに上回ります。日本の食料自給率は二○一一年(平成二三年)現在で約三九%と先進国で最低水準ですが、それにもかかわらず食料を大量に捨てているわけです。
いったん輸入が途絶えたら、国内の農地だけではとても国民全体の食料を支えることができないのは明らかです。

 耕作放棄地も増加の一途もたどり、二○一○年現在で約四○万ヘクタールにのぼります。森林の荒廃も続いています。狭く山がちな日本にとって本来農地や森林は何物にも代えがたい財産のはずです。それが前代未聞の未利用状態に陥っているわけです。

「SATOYAMA」をめぐる国際的な動き

 近代的な農業が導入されるまでは、世界中どこでも、自然のプロセスにあわせた農業が行われていました。現在でも、そうした農業が途上国を中心に残されています。また、先進国においても、日本の里山地域のほか、フランスを中心とする欧州諸国にも、依然として文化的な基盤として伝統的な農業がしっかり残されています。

 ブラジルの先住民は最活環境を守りながら暮らす優れた価値観をもつ人々だということが、当時のポルトガルの商人には理解できなかったのです。SATOYAMAもしくはSEPLs(社会生態学ランドスケープ)の略)とは、こうした恵みを与えてくれる大地や海を表しているともいえます。

      世界を幸せにする日本の農業

 TPP導入の弱肉強食の世界では、自分が儲かるものを売りつける外国企業が一時的に幅を利かせるかもしれません。それにより、既得権益や保護政策で守られてきたさまざまな業界で再編が起こるでしょう。
日本農業の財産は、豊かな文化と自然を背景に育まれてきた技術や知恵です。

肥料、農薬、技術、農業機械など、何でも新しいものを取り入れながら、その一方で在来種を育て、地域の文化や食になくてはならない野菜も守ってきました。

農家は保守的といわれますが、農家の方にお会いしてみると、むしろ新し物好きで、農法などさまざまなものに関心をもって取り組んでおられます。

そうして新しい技術を取り込みながら、変化の度に成長を重ねてきているのです。日本人はこれまで、「相手を幸せにするもの」を提供してきました。