摂食・嚥下(えんげ)とは、食物が認知され、口腔、咽頭、食道を経て胃に至るまでのすべての過程をいいます。摂食・嚥下障害とは、この一連の動作に障害があることです。

 誤嚥(ごえん)とは、食べものの一部あるいは全部が声門以下の気道に流入することをさし、飲食物・分泌物・胃内容物の誤嚥により起こる肺炎を誤嚥性肺炎といいます。

 日本の死亡原因の中で肺炎は、平成20年人口動態統計では、第4位ですが、高齢になるほど比率は上昇しています。

 高齢者の肺炎には、摂食・嚥下障害が背景にあり、誤嚥性肺炎が多いと考えられます。高齢者では、一見食欲不振と思われる症状の背景に、誤嚥もしくは誤嚥性肺炎が潜んでいて、嚥下障害のために食事がとれない場合がありますので、摂食・嚥下障害の評価が常に必要です。

加齢による摂食・嚥下機能への影響

 高齢者は、加齢とともに歯が欠損し、舌の運動機能が低下、咀嚼(そしゃく)能力が低下し、唾液の分泌も低下、口腔感覚の鈍化、塩味に対する味覚の低下などが生じて、咽頭への食べものの送り込みが遅れるような口腔での問題が生じます。

 また咽頭においても、喉頭(のどぼとけ)の位置が低下しているため、嚥下する時の喉頭挙上が不十分となり、上部食道括約筋を閉じている筋肉の機能不全も生じて、喉頭の閉鎖が不十分で誤嚥しやすくなります。さらに、咽頭収縮筋の収縮力が低下し、咽頭に唾液および食物が残留しやすくなり、誤嚥をきたしやすくなります。しかし、嚥下機能への加齢の影響は、個人差がみられ、高齢になっても嚥下障害がみられないこともあります