政府ぐるみの粉飾に走るオバマ政権

 米英覇権を解体したい「隠れ多極主義」が米中枢にいるといっても、解体が一直線に行われているわけではない。ドルや米経済の崩壊は、螺旋状に進んできたし、今後も螺旋状に進むだろう。

 たとえば最近では、米政府に「追加の救済金20億ドルを貸してくれなければ倒産する」と求めていた米自動車大手GM(ゼネラル・モータース)が「頑張ってコスト削減したので追加の救済金はとりあえず要らなくなった」と発表した。

ほぼ同時に、潰れそうだった米大手銀行のシティグループが、今四半期に赤字ではなく黒字を計上すると発表した。「シティ倒産」を織り込んで下落していた米株価は一気に反転し、4日続けて上がり、合計で12%も上昇した。

 しかし私から見ると、こうした現状は、螺旋状に悪化していく中期的な傾向の一部にすぎず、本質的な回復ではない。米国の金融界は、遅くとも今年初めから、全体として負債総額が資産+資本の評価額を上回る「債務超過」に陥り、資産の価値を決める米国の不動産価格が下落が続く限り、債務超過はさらに悪化する。

金融機関にとって債務超過は「死」であり、すでに死んだ銀行がまだ生きているかのように振る舞う「ゾンビ(幽霊)」の状態になっている。

金融システム全体の債務超過が続くと、金融の機能不全も続き、今はまだ健全な銀行も、いずれ債務超過になり、金融機関の死が感染していく。

 しかも、金融危機前には資金調達の主役だったデリバティブ市場(影の金融システム)も、粉飾的に一部が復活しているように見せているが、実質的には機能不全である。

たぶん2度と復活しない。世界のデリバティブの相発行額面残高は、世界のGDP総額の20倍、米国だけを見ると、40倍である。銀行の多くは、デリバティブ商品を担保に金を貸しており、デリバティブの崩壊は銀行の損失急増となる。

シティが本当に黒字だとしても、他の銀行の多くは危険な状態にある。

 私から見ると、そもそもシティの黒字も粉飾の疑いがある。2月27日、米政府はシティの持ち株250億ドル分を、配当重視の優先株から、経営権重視の普通株に転換し、米政府はシティ株の36%を保有する大株主になった。

この転換によって米政府は事実上、シティを支配することが可能になった。

 それから約10日後、シティは「黒字を出す」と発表した。米政府がシティの株を転換して支配権を握ったのは、シティを使った株価対策を行うためだったのではないか。

  GMが救済金をもらわずにすむようになったのも、米政府が裏で手を回して、どこかから融資させた結果かもしれない。こうしたやり方は、一時的に株価を押し上げるだけで、中長期的には何の解決にもならず、税金の無駄遣いである。

 すでに米金融界全体が国有化されている

 米政界には「危機の大手銀行を国有化すべきかどうか」という議論があるが、この議論自体が的外れである。

 昨秋のリーマン破綻以来、米金融界では銀行の相互不信に拍車がかかり、民間銀行どうしが金を貸し借りせず、連銀や債務と言われるが「最後」どころか「唯一」の貸し手となっている。

 米金融界の不良債権は、しだいに唯一の貸し手である連銀や米財務省に救済融資の担保として蓄積されていく。
 連銀の資産は、ドル発行の担保でもある。米財務省の資産は、米国債の後ろ盾でもある。最終的には、ドルや米国債の国際的信用の下落に行き着く。

 今、世界で最も多くの米国債を持っている国は中国だが、中国の温家宝首相は3月14日、米国債の将来に対する懸念を表明し、中国が米国に持っている資産の価値が下がらないよう、米国は金融危機対策をしっかりやってほしいと、米国を批判した。

 中国の高官がドルや米国債に対する懸念を公式な場で表明したのは、これが初めてである。ドルや米国債が「安全なもの」から「危険なもの」に転換していく流れが顕在化しつつある。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・田中宇氏・・・80%