百年単位で見ると

大井 幸子氏
フーチ 80%
ソ連が崩壊し、米国が軍事的に完全な勝利を収め、その上に、IT革命が世界を席巻していきました。

インターネットは新しいビジネスを創り出し、新しい経営スタイルやビジネスモデルが生産性を向上させ、米国は文字通り世界経済の牽引力となりました。

それと同時に、米国の知的所有権会計基準などが「グローバル・スタンダード(世界標準)」として世界に広まりました。まさに21世紀は「米国の一人勝ち」、米国の一国覇権主義をもって幕を開けました。

その中で、米国の死活問題とは、核兵器、細菌兵器、化学兵器など米国を攻撃する脅威をいかに抑止する、敵対的な「ならず者国家」(イラン、イラク北朝鮮)の出現を防止する、同盟諸国の存続とグローバルシステム(貿易、金融、エネルギー供給、環境)の安定等です。

現在、局地的にはいくつもの地域紛争が起こり、長期化しています。しかし、世界全体に戦火が広がり、第三次世界大戦に至る可能性はもはや考えられません。次に大戦があれば人類そのものが滅亡してしまいます。21世紀は生命科学の時代です。

次に起こる世界戦争は、目には見えない細菌がばらまかれ、あるいは無人攻撃機が爆弾を落とし、ロボットが人間をサクリクするといったSFのような戦争となるでしょう。

さらに、生命科学の技術革新は、食料・医療、環境など人命すべてに関わります。遺伝子組み換え技術は、人命を救う反面、悪魔のように利用すれば、人類を皆殺しにもできます。生命を敬う、人間性を復帰させる、こうした倫理や道徳の原点に戻ることが21世紀の私たちに最も求められることだと思います。

さて、レーガン大統領から始まった1980年からリーマンショックまでの2008年までの20世紀最後の20年から21世紀最初の10年にまたがった約30年間は、世界大戦はなかったものの、金融戦争がありました。米ソ冷戦終結後、「世界金融戦争」で米国が圧倒的に勝利したといえます。

そして、この30年間で世界の金融市場は根本的に変質を遂げたのです。従来の経済学では、国民経済が研究対象であり、実体経済の好況・不況という「景気循環」が一般的な考え方でした。そして、実体経済の動きを金融市場が反映するとして考えられてきました。例えば、株式市場は実体経済の先行指数とされてきました。景気が良くなるその半年ほど前から株価指数が上昇するといった具合です。

しかし、金融市場が実体経済を超えた巨額のマネーを動かし、金融取引での利益が実体経済の利益よりもはるかに大きくなるにつれ、マーケット(資本市場)がバブルの生成と破たんを繰り返すようになります。本来、金融は企業の資金繰りを支えるなど、経済活動の屋台骨でした。

もともと舞台の「裏方」だったはずの金融が舞台のオモテに出て来て、実体経済が金融市場の動向に巻き込まれて行くという逆転した現象が起こり、今もなお続いているのです。

1980年代に始まったレーガノミクスにおいては、基軸通貨ドルを世界に流通させ、軍事、技術革新と並び金融を国益の柱として、世界で圧倒的な優位性を確立しました。具体的には、グローバルマネーは国境を超えて世界の株式・債券市場に還流します。一国の政府は、金融や財政における政策を通して自国通貨の価値をコントロールします。同時に米国の場合は、基軸通貨ドルを用いて、WTOやGATT、世界銀行など自由貿易体制をコントロールする政治力を持っています。

1981年にレーガン大統領が就任してから、米国は米ソ冷戦終了を見据え、外交、軍事、そして金融・経済において圧倒的優位に立ち、他国をコントロールしてきました。第三次世界大戦が不可能となった今、米国は金融戦争で勝利を独り占めにしてきました。しかし、リーマンショック後、世界のシステムは変化のときを迎えます。

それから10年後の2011年には、日本では大惨事が起こりました。東日本大震災です。この災害は自然災害であると同時に、大きな「人災」でした。政府の危機管理能力の欠如、既存の体制、統治のあり方が根本的に見直される時が来たのです。「1」のつく年に始まった揺らぎはその後、10年間続きます。大震災で日本の国体への信認が揺らぎ、パラダイムシフトが日本の土台を揺るがしています。

21世紀の次の10年、すなわち2011年から20年にかけて、私たちは今そのど真ん中にいます。激変する世界の潮流のなかで、日本はこのまま行けばどうなるのか、日本が自立して生きて行くために何がハードルとなるのか、どうすればよいのか。そして、命の次に大事な資産を守るにはどうしたらよいか。

実際、8月末から通貨市場にも大きな変化が起こっています。米英では利上げに向かい、ECB(欧州中央銀行)はさらなる量的緩和策に向かう「デカップリング」が起こっています。米国の政策金利の上昇期待からキャリートレードの大きな巻き戻しが起こっています。

一般にキャリートレードでは、低金利通貨で借り入れ、高金利通貨で運用(高利回りの通貨の株や債券に投資)し、収益を上げます。これまでのキャリートレードでは、米ドルで借り入れ、新興国に投資していたのですが、米国の金利が上昇し始めることから、新興国通貨で投資した資産を売り、米ドルに戻す動きが一斉に起こったのです。☆大井幸子氏 超円満