イスラム国の衝撃

池内 恵氏
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 2011年初頭以来、「アラブの春」により各国の統治体制が揺らぎ、その再建が主要な課題となっていた中東政治は転換点を迎えた。2001年の9・11事件の再来であるかのように、「テロ組織」の問題が中東政治の主要な課題として浮かび上がった。しかしこの度は、単なる反体制のテロ組織にとどまらず、広範な領域支配を行う政治的主体となったイスラム過激派の集団とその理念にどう対処するかという、より困難な問題となっていた。

          カリフ制を宣言
 衝撃は支配領域の拡大に留まらなかった。6月29日には、名称を「イラクとシャームのイスラム国」から、「イスラム国」に改め、指導者のアブー・バクル・アル=バグダーディーがカリフに就任したと宣言した。指導者がカリフを名乗ったということは、イスラム法の理念からは、イラクとシリアで実際に制圧した領域だけでなく、全世界のイスラム教徒(ムスリム)の政治的指導者としての地位を主張したことになる。斬首による処刑と奴隷制