心の未来を科学する?

ミチオ・カク氏
「信じる者にはどんな説明も要らない。信じない者にはどんな説明でも足らない。」この「暗黒時代」は数千年続くが、それも無理からぬことだった。脳は大人でも1400グラム弱しかないが、太陽系で最も複雑な物体だ。体重の2パーセントにすぎないのに、食欲旺盛で体全体のエネルギーのまるまる20パーセントは脳のコードとなっている。頭蓋のなかにはおよそ1000億のニューロンがあり、ニューロンの接続や経路の数はさらに幾何級数的に増える。

        ふたつの革命

 400年前に望遠鏡が発明されると、この新たな驚異の道具で、にわかに天体の革新的な部分がのぞき込めるようになった。これは、古今を通じて最高に革命的な(そして反体制的な)道具のひとつだった。いきなり、人はみずからの両の眼で、過去の通説や教義が朝もやのように消えるのを目の辺りにできたのだ。

 神の知恵の完璧なあかしとなったのではなく、月にはギザギザしたクレーターがあり、太陽には黒点があり、木星には衛星があり、金星には満ち欠けがあり、土星には環があった。望遠鏡が発明されてから15年のうちに、宇宙について、それまでの人類史のすべてを合わせたよりも多くのことが明らかになったのである。

 物理学者はこの試みで重要な役割を果たし、MRI、EEG、PET、CAT、TCM、TMS、DBSなどの略称を持つ新しいツールを次々と提供して、脳の研究を大きく変えた。にわかに、こうしたマシンによって、生きて考える脳のなかで移りゆく思考が見えるようになったのだ。カリフォルニア大学サンディエゴ校の神経学者、V・S・ラマチャンドランは、こう語る。「哲学者が数千年にわたり検討してきたこれらの問題はすべて、われわれ科学者が脳の画像化をおこない、患者を観察して的確な質問をすることで探れるようになる」。

          心を強化する

 MRIスキャナーを使って、いまや科学者はわれわれの脳内でめぐっている思考を読むことができる。彼らはまた、全身不随の患者の脳にチップを挿入し、コンピュータにつなぐことによって、その患者が思考だけでインターネットを見てまわり、電子メールを読んだり書いたりし、ビデオゲームで遊び、車椅子を操縦し、家電を操作し、機械の腕を動かすことができるようにもしている。それどころか、そうした患者は健常者にできることをなんでもコンピュータを通じてできるようになっている。

 そのうちに、「心のインターネット」とも言えるブレインネットを構築し、そこで思考や感情が世界へ電子的に送られるようになるかもしれない。夢さえも録画され、インターネットで「ブレインメール」されるのだ。

     この革命を推し進めるものは何か?

 いまや脳スキャンによって次々と得られるデータが解読されつつあり、その進歩は驚くべきものだ。年に何度か、新たな大発見や大発明を告げるニュースを目にする。望遠鏡の発明から宇宙時代の到来までは350年かかったが、MRIや高度な脳スキャナーが登場してからわずか15年で、脳を外界と能動的に―つまり外界に働きかける形で、つなげられるようになっている。なぜそんなにも早くなし遂げられ、この先またどれだけのことが待ち構えているのだろう?

 今の携帯電話には、1969年にふたりの人間を月面に到達させたときのNASAの全部を含めたよりも高い処理能力があると言って、人々を驚かす。コンピュータはいまや、脳から出る電気シグナルを記録して、おなじみのデジタル形式の言語へ部分的に翻訳できるほど、性能が高まっている。